1999年発行のLIFE誌(米)の中で「この1000年で最も重要な功績を残した世界の100人」に日本人で唯一名を連ねた江戸時代の画家「葛飾北斎」は、たった二人しか選ばれていない19世紀以降の画家としても、モダンアートの父と呼ばれているピカソと並んで選ばれています。
このことが意味するのは「印象派からモダンアートへと連なる西洋美術史の流れの出発点に葛飾北斎がいる」という世界的な評価であるといっても過言ではないのです。
しかし明治維新後の日本国内では、近代化と引き換えに江戸時代の伝統美術は軽んじられたまま衰退してしまったので、残念ながら北斎の国内外での評価には少なからず差異が生じています。
ところが最近になって北斎の再評価が各方面で進んでいます。外務省は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、次期パスポートの基本デザインに北斎の「富嶽三十六景」を採用し2019年の導入を目指すと平成28年5月に発表しました。
また、美術館自体が世界遺産に登録され、国内西洋美術の殿堂でもある国立西洋美術館では、昭和34年の開館以来初めて日本人画家の名前を冠した企画展「北斎とジャポニスム~HOKUSAIが世界に与えた衝撃~」が2017年10月から開催されるなど、世界の耳目が東京に集まる機会に向けて、近代化、欧米化にまい進してきた歩みを止めて、自国から発信するに相応しい文化の再評価が進むのは、喜ぶべきことだと思います。
葛飾北斎の作品の中でも、特に印象派の画家たちに影響を与えたと云われているのが「北斎漫画」です。江戸時代に北斎自身が10巻を、明治時代に弟子たちによって追加の5巻が発行されていますが、2017年に日本では未発表の「HOKUSAI'S LOST MANGA」3巻が海外の美術館によって発行されました。
発行したのはボストン美術館。日本から10,000km以上も離れたボストンにある、アメリカ有数の美術館です。
アメリカで最も歴史の古い街であるボストンには、米国内で一番古い大学(ハーバード大)や地下鉄が走っています。その中でもボストン美術館は、ボストン在住の美術愛好家たちが中心になって1870年に創設されてから一度もその運営や作品の収集に関して国や政府から経済的な援助を受けていない生粋の市民美術館として愛されています。
そして、とても日本との関係が深い美術館でもあるのです。
ボストンが貿易港であるためボストン美術館には、アメリカの資本家たちが支えた印象派絵画の他に、アジア、オセアニア、アフリカといった世界各国の美術品を幅広く所蔵されています。特に日本美術のコレクションに関しては、世界有数といわれていますが、そこには日本と日本美術に魅せられた3人のアメリカ人たちの情熱によって、時代の荒波に曝されていた日本の文化が、静かに守られてきた物語があるのです。
【後編に続く(7/21公開予定)】
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