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【コラム】緻密に計算された奇想:アルチンボルド/「四季」

ジュゼッペ・アルチンボルド(1526もしくは1627~1593)は、十六世紀のイタリア・ミラノで生まれたマニエリスムの奇想画家である。

同じく画家であった父のもとで修業を積み、生地でステンドグラスやフレスコ画の制作に携わっていたが、1562年に神聖ローマ帝国皇帝フェルディナント一世の宮廷に召抱えられて以来、続くマクシミリアン二世、ルドルフ二世とハプスブルク家三代の皇帝に仕えた。その多才さは、宮廷の装飾や衣装デザイン、宴の演出など、ウィーンとプラハを舞台に華々しく発揮された。

しかし、何といってもアルチンボルドの代名詞は、果物や動物、本などを巧みに組み合わせて人間の顔を描いた風変りな肖像画群である。

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春 / image via wikipedia

連作『四季』はまさしくその典型で、「春」では写実的に描いた春の花々80種を絶妙に配置することで、女性の瑞々しい横顔を現出させている。また別の連作『四大元素』の「水」は、62種類もの海の生き物で人間の顔を表現している。細部まで精妙に描かれているだけに、不気味さすら感じられるほどだ。

アルチンボルドの類まれなる想像力は、一度見たら忘れられない珍奇な作風を生み出した。しかしながら、それは気紛れや手すさびで描いたものではない。

身近なもので自然の秩序を示し、ミクロコスモスとマクロコスモスの照応という当時の世界観に則っており、さらにその全てを皇帝が統べているということを讃えているのである。

学問と芸術の熱心な庇護者であったハプスブルク家の皇帝たちは、緻密な計算や知識に裏打ちされたアルチンボルドの作品を読み解くことを、知的で高度な“遊び”として愉しんでいたのであろう。

一時は忘れ去られた画家となっていたが、20世紀のシュルレアリストに再発見され、あのダリをも吃驚させた。アルチンボルドの不思議な作品たちは今も私たちに汲みつくせない謎と魅力を湛え続けている。

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アルチンボルド展:2017年9月24日(日)まで
「冬」 ジュゼッペ・アルチンボルド

中川貴文
一般社団法人日本美術アカデミー
クリエイティブ・ディレクター・構成作家