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【コラム】「時空を超えていくイマジネーション シュルレアリスムの源流~ヒエロニムス・ボス/「快楽の園」【後編】

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ス・ヘルトーヘンボスは、今のオランダ南部に位置し、羊毛を中心とした貿易都市として栄えていました。また、当時はキリスト教の行事であったカーニバルが、オランダで最初に行われるなど、大勢の聖職者が住む街でもありました。

Boash
快楽の園の外面/image via wikipedia

しかし、そこで生まれて人生のほとんどを過ごしたボスの描く祭壇画は、時に混沌とした教会への批判を含んでいるのですから、後に宗教改革で批判される聖職者たちの堕落した生活ぶりを目の当たりにしていたのだと想像に難くはありません。

また、1453年に東ローマ帝国を崩壊させたトルコ帝国、1492年に発見されたアメリカ大陸といった、次々に現れる未知のモノの存在や、宗教改革前夜のヨーロッパ全体を覆っていた漠然とした不安感といった時代の空気も、大いに影響したのだと思われます。

快楽の園

向かって左画面の「地獄」に描かれている卵の殻の胴体を持つ怪物は、ボスの自画像とも云われていますが、この不気味な寓意に満ちた作品を描いたボス自身は、上流階級の女性と結婚し、ヨーロッパ各地の王侯貴族から多数の依頼を受けて、地元の名士として活動したのですから、彼の人生がこの世界と全く同化していたとは考えにくいのです。

ボスの没後すぐに始まる宗教改革の偶像破壊によって、彼の作品は30点ほどしか残っていませんし、その生涯も不明な点が多いのですが、今でもこの謎めいた「快楽の園」は、「人間の愚かさに対する警鐘である」、「いや悪意に満ちた異教の作品だ!」と、その解釈について論争が続いています。

また、スペイン国王フェリペ2世がボスの作品の熱烈な愛好家だったことで、作品のおよそ1/3は難を免れてプラド美術館(スペイン)に残っていて、ボスが作品の中に描いた怪物たちに見られる奇想の産物は、500年以上の時を経て、ダリやミロ(共にスペイン)といった20世紀のシュルレアリスムの画家たちにも影響を与えています。

中世の終わりに、大きな変化を迎えた時代の空気を描きながら、現代にも通じるインパクトを保ち続けるボスのイマジネーションは、時空さえ超えて私たちに問いかけている気さえしてしまいます。

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ヒエロニムス・ボス
快楽の園

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター