キリストの再臨に当たり使者たちも蘇生し、生きている者たちとともに最後の審判を受け、天国へ昇る者と地獄へ堕ちる者が峻別される。人の子は、栄光に輝いて天使たちをみな従えて来るとき、その栄光の座につく。
そして全ての国の民がその前に集められると、彼らを選り分け、羊を右に山羊を左に置く」とマタイ書が述べているのに基づく。ヨハネ黙示録により深い信仰で結ばれたヴィットリア・コロンナの影響をうけ、ミケランジェロはこの『最後の審判』に取り組み、夫人にこれを捧げたともいわれる。
ここに“限り無き宇宙空間”が拡げられ、中央には、高貴な義務の執行者として右手をあげ、全ての哀訴を拒絶するように胸の上に左手を曲げる厳正なキリストと、その傍らに仮借なき執行から顔をそむける慈悲の聖母が描かれた。画面左手には選ばれて天に昇る人々、右手には、罰を受けて地獄に落される人々、そしてペテロやパウロら聖者たちがキリストの左右に殉教の道具を持って立つ。
生きながら皮を剥がされたと伝えられる殉教者バルトロメウスは左手に自分の皮を持ってキリストを仰ぐ。その皮の顔がミケランジェロ自身の肖像画である。
待望の千年王国が実現しないとなったとき、教会は「四終」すなわち死・審判・天国・地獄の教義を重視し、教皇パウロ三世がミケランジェロにこの壮大な『最後の審判』を描くように命じた。ほとんどの人物が裸体であることを非難した式部長官チェゼナに怒ったミケランジェロは、この男を悪魔に囲まれ大蛇を身にまきつけた地獄の審問官ミノスとして描いている。聖母マリアの顔はヴィットリア・コロンナである。
解説:高草 茂(美術史家)