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北斎とデザイン:ジャポニスムアカデミー講座「日本のアニメ文化の原点 ジャポニズムと北斎漫画」より

葛飾北斎は、いま世界中で熱い視線を注がれる画家です。海外からの波に押されるように、パスポートの新デザインに『富嶽冨嶽三十六景』が採用されるなど、北斎は日本でも注目(?)が高まっています。

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富嶽三十六景 江戸日本橋 / image via wikipedia

偉大な画家、北斎は画家以外にもデザイナーという一面ももっています。

なぜ北斎がデザイナーになり得たのか。その理由は北斎の画歴にあります。北斎は、墨絵、大和絵、狩野派、琳派などのあらゆる流派の絵を学びました。特に琳派は日本美術の装飾的側面を代表する流派で、北斎は琳派の「俵屋宗理」を名乗っていた時期もあります。そのようなそうして身につけた装飾的技術やセンスを武器に、自ら「不染居」と名乗るほど型にはまらない様々な絵を描くことにより、斬新なデザイン性が生まれました。

北斎デザインの精華は、晩年に描かれた花鳥画や肉筆画に表われます。動きの描かれた花鳥図や、日常にある身近な題材をあえて描いた肉筆画、実在しない生き物を描いた鳳凰図には、構図・色彩ともに他の画家にはないほどにの高いデザイン性があるのです。

上野上町祭屋台の天井絵『男浪』『女浪』は、現在イギリスの大英博物館に展示されて、大変な人気を博しています。浪の描写を追及して描かれた絵には、金箔と極彩色の美しい縁絵が施され、北斎独特の「青」の素晴らしさと相まって、デザインとして完成されたものになっています。

北斎は、自らのデザインの技術を伝える指南書や絵手本を多数出版し、工芸品のデザインも多く手掛けました。『略画指南書早指南』は定規とコンパスを使った絵の描き方を指南するもので、絵手本の代表作『北斎漫画』は海外で「スケッチ集」「デザイン集」として知られています。

工芸品のデザインとしては、着物の小紋染のパターン・ブックである『新形小紋帳』や、櫛や煙管の図案集である『今様櫛きん雛形』を出版しています。山や花のデザインが盛り込まれた北斎デザインの櫛は一番良く売れたと言われています。

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グスタフ・クリムト / ユディト I

北斎デザインの影響力は海外の画家にも及びました。クリムトの『ユディト I』は琳派の影響を強く受けており、金屏風の日本画に似ています。

トゥルーズ=ロートレックは北斎の大胆な画面構成に学んで、「パリの浮世絵」とも言える瀟酒なポスター芸術を残しました。また、ミュシャは北斎のデッサンを熱心に練習しており、『ジスモンダ』に描かれた草、花冠、衣服の柄は北斎デザインの影響を受けたものです。

葛飾派の門下生は二千人と言われており、名古屋や大阪などにも弟子がいました。緒方洪庵の適塾は門弟が三千人いたと言いますから、それに匹敵するくらいの影響力があったのではないでしょうか。

適塾の門弟たちは、後に江戸幕府を倒し、明治という新しい時代を作ります。美術の面では、葛飾「塾」もまた同じように強い影響力を持ち、単なる画塾ではなく、後世に多大な影響を及ぼしました。江戸から世界を見据えて時代を動かした北斎は、まさに時代をデザインした男なのです。

「北斎とシーボルト、印象派」:ジャポニスムアカデミー講座「日本のアニメ文化の原点 ジャポニズムと北斎漫画」より
「北斎とダ・ヴィンチ」:ジャポニスムアカデミー講座「日本のアニメ文化の原点 ジャポニズムと北斎漫画」より

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