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レオナルドが発案したと云われている画法の一つは「空気遠近法」です。「絵画こそ最高の芸術」そう言い切ったレオナルド・ダ・ヴィンチに、同じく盛期ルネッサンスを代表する23歳年下で彫刻が本業だったミケランジェロが「絵画に裏側が描けるんですか?」と噛みつくと、レオナルドは「彫刻に空気は描けるのか?」と論破したと云われています。
しかし彼はただ大言壮語したわけではなく、「空気遠近法」という描き方で実際に作品に奥行きを持たせていたのです。『モナ・リザ』の背景をよく観ると、遠くのモノほど青く描かれています。これは、空気の中には水が含まれているので、遠い=空気の層が幾重にも重なるから青みがかる、という論理的な根拠に基づいているのです。
もう一つは「スフマート技法」。スフマートの語源がイタリア語の「煙」にあるように、自然界には存在しない「輪郭線」をぼかして描き、色彩と陰影で私たちに形を認識させるのです。観る角度によって表情を変え、世界中を魅了している『モナ・リザ』の微笑は、まさに「スフマート技法」による口元の表現の賜物でもあります。
ルネサンス以降多くの画家が同様の画法を駆使しますが、特にレオナルドは自らの手でキャンバスを擦って、筆の跡さえ残さないように細心の気を配っていました。だから彼の作品には、たくさんの彼の指紋や掌紋が残っているとカパッソ教授は言います。
カパッソ教授は、レオナルドの作品からおよそ200個の指紋や掌紋を採取することに成功していて、レオナルド・ダ・ヴィンチ作品の真贋についての科学的根拠を示すとともに、指紋の特徴についても教えてくれました。レオナルドの指紋は、アラブ系民族の特徴(渦巻きがふたつある)を持っているというのです。
当時イタリア中部にいたアラブ系民族の多くは使用人であったことから、母親は雇われていた使用人の女性ではないかと教授は推測します。非嫡出子であり、幼くして母親と引き離されたレオナルドでしたが、自由に生きる遊び人のフランチェスコ叔父に可愛がられて、学校へ行かずにフィレンツェの街を散策したり、アルノ川のほとりで過ごしたりする中で、自然科学ついての深い考察力を手に入れていくのですから運命は不思議なものです。
稀代の天才に成長したレオナルド・ダ・ヴィンチに、王族から依頼されるのは肖像画だけではなく時には戦争のための武器や、お城のデザインまで多義に渡っていました。
「手稿」と呼ばれる彼のアイデア帳には、科学や芸術に関する膨大な資料と共に数々の新兵器のデッサンも描かれています。この手稿の特筆すべき点は、レオナルドの膨大な知識と好奇心の他にも、書かれている文字が鏡面(左右さかさま)文字であることです。
その理由は諸説ありますが、「数学者のみが私の作品を理解できる」とまで言った論理的なレオナルドですから、きっと自分のアイデアを盗まれないように暗号化しようと、左利きであることを利用して、確信的に逆さまに書いたのだと思います。
後編に続く…(6月9日配信予定)
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・【コラム】秘められた母親への憧憬(後編):レオナルド・ダ・ヴィンチ/「モナ・リザ」
・レオナルド・ダ・ヴィンチ
・モナ・リザ
・レオナルド×ミケランジェロ展:2017年6月17日〜