一度目が合うと、吸い込まれるように見つめてしまう作品があります。
フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」。
僕はこの作品を前にすると、柔らかな光に包まれたこの少女に恋でもしたような、甘やかな感情になります。けれどそれは、粘着的なものではなくとても清廉で凛とした手触り。
どこがこれほどまでに僕を惹きつけるのだろうと、じっと作品を見つめているとひとつの答えを見つけました。
おそらくそれはフェルメールの「光のマジック」によるものです。
訪れたことのある方ならお感じになったと思いますが、フェルメールが生まれ育ったオランダは独特の光に満たされた国です。
オランダの気候の特徴である霧が太陽の光を優しいベールで包み、縦横に張り巡らされた運河の水面が、そんな光を反射してキラキラと瞬く景色の中にいると僕は、いつまでもその場所に漂ってたゆたっていたいような気持ちになってきます。
そんな光の国オランダで生きたフェルメールが、手に入れた表現が「光の点」です。
真珠の耳飾りの少女の、瞳の中、耳飾り、そしてよく見ると唇の端にも、白い点が描かれています。
現代、アニメや漫画では当たり前のように使われているこの技法を生み出したのが、フェルメールだと言われています。
フェルメールはカメラの原型であるカメラオブスキュラという装置でこの表現を手にしました。多くの画家はこの装置を、遠近感を確認するために使っていたそうです。
しかしフェルメールは、カメラオブスキュラを覗いた時に、ピントの合っていない端の方の光が白い点に見えることに気がつきました。
そしてそれをそのまま描いたのです。
他の誰もが見過ごしていた部分に気がつく観察眼と、慣例にとらわれずに描く信念。僕の恋心の源流を探ってみると、フェルメールがこの表現に至った才能にまで惚れ込んでしまいそうになります。
光の点がうたれた少女の瞳、そしてそれを生み出したフェルメールの非凡な才能、僕をとらえて離さないのは、少女に宿された光と画家自身の魅力でした。