ジョヴァンニ・ベッリーニの工房で修業し、ジョルジョーネから多くを学んだティツィアーノは、ヴェネツィア絵画の黄金時代を築き上げた。『フローラ』は彼がジョルジョーネの影響から脱し、独自の様式を確立しつつあった時期に制作されたものである。
そこにはジョルジョーネの夢見るような詩的な表情とは異なり、現実をしっかりと見据えた女性像が描かれている。
一方、『ウルビーノのヴィーナス』は、すでにティツィアーノの名声が広く行き渡った1530年代に、ウルビーノ公の子息のために制作されたものである。ヴィーナスは貴族の館を思わせる場に全裸で横たわり、極めて世俗的かつ官能的に表されている。
後方で衣装を探している召使いらしき女性が、ヴィーナスの世俗性をより強めている。ティツィアーノの描く妖艶(ようえん)な裸婦は、ルーベンスをはじめ、のちの画家に多大な影響を与えた。
解説:松浦 弘明(多摩美術大学 講師)