
15世紀後半のフィレンツェにおいて、画家たちの関心はおもに写実的で彫像的な人物表現や深遠に広がる背景描写にあった。
ボッティチェッリはこの主要な流れから外れる作品をいくつか残しているが、この作品もそのひとつである。
登場人物はいずれも画面前景に大きく描かれているため奥行き感は希薄となり、風に舞う衣や髪の毛には線の遊びが見られ、作品全体の持つ優雅さや装飾性は国際ゴシック様式にも通じている。
ボッティチェッリがその後、必ずしも広く認められたわけではなく、ようやく19世紀後半になってから評価されたというのも、彼のこの中世的とも言える特徴に起因しているのであろう。