ウフィーツィ美術館の第2室には、『荘厳の聖母』を描いた大きな3枚の祭壇画が並べて置かれている。『ルチェルライの聖母』はフィレンツェのサンタ・マリーア・ノヴェルラ聖堂より依頼を受けたシエナの画家ドゥッチオによって描かれた。
奥行きの感じられない平面性、形式化された聖母の顔立ち、細い金線が施された幼児キリストのヴェールには、いまだビザンティン美術からの影響が感じられる。
しかし、その一方で玉座の背もたれにかかる布や天使の衣に、中世には無かった自然主義的な表現を観察することができる。ほぼ同時期にフィレンツェの画家チマブーエによって描かれた『サンタ・トリニタの聖母』でも、同様にビザンティン的な要素が見られるが、聖母子の座る玉座はより写実的に表わされている。
玉座の周囲を取り囲むように天使が重ねて置かれることにより、見る者に三次元的空間を感じさせるのである。
そして『オンニサンティの聖母』では全く新しい様式が確認できる。鋭角の三角形をした破風を持つゴシック建築のような玉座、人間味を帯びた聖母子の顔立ち、内に包まれた肉体の形体に沿って施された衣の襞(ひだ)、しっかりと地に足をつけた人物たち。
ジオットは13世紀のフィレンツェ美術を厚く覆っていたビザンティン様式を拭い去り、自然主義という新しい観点の下、ルネサンス美術への扉を叩いたのである。