ロシア サンクトペテルブルク
エルミタージュ美術館は、ロシアのサンクトペテルブルク(旧レニングラード)にある国立美術館で、考古学資料から20世紀の美術まで、すでに記録された美術品だけで約270万点を収蔵する世界有数の大美術館である。ただし自国のロシア美術はいくらかの例外を除いて、同市のロシア美術館にある。女帝エカテリーナ二世が宮廷ギャラリーを作るため、特に西欧の絵画の収集に努めたものが、この美術館の基礎となった。
女帝は1762年に、イタリア系の建築家ラストレッリの設計によって完成した冬宮に「エルミタージュ(隠れ家)」を増築、ここに1775年、絵画ギャラリーを設け、ドレスデン、パリなど各地で、ブリュールやクロザなど有名な収集を次々と購入、ルーベンスやレンブラントなど巨匠の名作をはじめとして、イタリア、フランス、オランダ、フランドルの作品を集めた。
収集を始めてから10年後の1774年には、すでに所蔵品は2,080点を超えたと言われる。これらを収容するため、現在の「旧エルミタージュ」が増設され、のち、19世紀半ばにさらに「新エルミタージュ」が建設されたが、1917年の大革命の結果、冬宮もエルミタージュ美術館として開放、美術品だけではなく、宮殿の建築と室内装飾も鑑賞できる美術館になった。
エカテリーナ二世の収集は、絵画のほか多数の貴金属器、陶磁器などの工芸品が含まれていたが、これにピョートル一世以降の収集が加えられ、今日に引き継がれていく。特に、アレクサンドル二世によって美術館独自の収集が許されてから、その活動に拍車がかかった。この結果、のちの科学アカデミーの協力で進められた絵画部門の充実や、エジプト、ギリシャ、ローマの古代美術、イラン・イラクの美術、南ロシアの古墳の出土品などが加えられ、所蔵品は急増する。
また、大革命ののち、貴族や商人などの個人収集品が集められたが、中でもふたりの商人、。シチューキンとモロゾフによる印象主義の巨匠からピカソ、マティスらキュビスムとフォーヴィスムをはじめとする20世紀絵画に至る大収集が加わったことが、エルミタージュを今日の総合的な美術館に成長させる大きな要因となった。
ここで紹介する絵画部門には約1万5,000点が収蔵されている。特にイタリアのルネサンスとバロックの収集は質量ともに優れ、またレンブラントを中心とするオランダ17世紀、プーサンを中心とするフランス17世紀の収集も驚くほかない充実ぶりをみせる。そしてセザンヌ、ゴーガンらの印象派後期、マティス、ピカソら20世紀絵画が最後を飾る。