ドイツ/ミュンヘン
ミュンヘンのアルテ・ピナコテーク(「古絵画館」の意)は、ドイツ圏においてドレスデン絵画館やウィーン美術史美術館と肩を並べる世界有数の絵画コレクションである。
開館は、1836年。ミュンヘンを首都とするバイエルン王家(ヴィッテルスバッハ家)の美術収集を一般公開する場として、国王ルートヴィヒ一世によって開設されたものである。
歴史をさかのぼると、作品収集は、16世紀初め、ヴィッテルスバッハ家のバイエルン大公、ヴィルヘルム四世の時代に始まる。その後、このコレクションは、マクシミリアン一世、マックス・エマヌエルなど歴代のバイエルン大公(選帝侯)の収集活動を経て充実していったが、さらにコレクションの歴史にとって幸運だったのは、ヴィッテルスバッハ家の他の系統の美術収集が次々と併合されていったことであった。
すなわち、18世紀末以降、カール・テオドアやマックス・ヨーゼフ四世といった君主たちの手によって、ファルツ系ヴィッテルスバッハ家のデュッセルドルフとマンハイムの絵画収集や、ツヴァイブリュッケン系ヴィッテルスバッハ家のカルルスベルク城のコレクションがミュンヘンのコレクションに吸収されたのである。
ナポレオンの支配下でバイエルンは王国となったが、王家の絵画収集は、教会財産の吸収、皇帝直轄都市や諸辺境伯領の併合を通じて、さらに内容を充実させた。そして、それを受け継いでアルテ・ピナコテークという公開の美術館としたのが、19世紀のバイエルン、そしてミュンヘンの文化的栄光の基盤を築いた国王ルートヴィヒ一世であった。
そのコレクションの中心は、まず何と言ってもデューラーやアルトドルファーを中心とするドイツ・ルネサンス作品であるが、先に述べたようなコレクションの源の豊かさや、ルートヴィヒ一世の時代に始まる周到な収集拡充のおかげで、他にも多くの核を持っている。
ウェイデンなどの初期ネーデルラント絵画、ラファエルロやティントレットなどのイタリア絵画、ルーベンスの大コレクションなどが中でも注目される。また、ドイツ新古典主義の代表的建築家クレンツェの手に成る建物自体も貴重な記念物である。(有川 治男)