イタリア/フィレンツェ
ウフィーツィ美術館は、イタリアのフィレンツェにある世界でもっとも重要な美術館のひとつである。ウフィーツィ(UFFIZI)とはイタリア語で「事務所」という意味だが、ルネサンス様式で建てられた素晴らしい美術館の建物は、もともと公務執行のために建てられたものであった。
1560年にメディチ家のコージモ一世は、市庁舎パラッツォ・ヴェッキオに隣接した場所に「事務所」の造営をヴァザーリに命じた。彼は細長い建物がアルノ河に向けて平行に走るコの字形のプランを考案した。そして1581年、フランチェスコ一世は完成したこの建物の東側2階を、メディチ家がそれまで収集してきた芸術作品保存のために使うことを決定するが、これがウフィーツィ美術館の始まりである。その壮大なコレクションは、1737年にメディチ家が途絶えるとトスカーナ大公国の所有となり、18世紀末には一班に公開されるようになった。
このように美術館の収蔵品は、芸術に深い理解を示したメディチ家代々のコレクションとフィレンツェの諸聖堂に所蔵されていた作品を基板にしているため、その内容は実に充実したものとなっている。ここではフィレンツェ絵画ばかりでなく、16世紀のヴェネツィア派、フランドルやドイツのルネサンス絵画、カラヴァッジオ、ルーベンス、レンブラントといった17世紀の作品にも接することができる。とはいえこの美術館最大の特長は、14世紀から16世紀までヨーロッパ美術の主導的役割を担ったフィレンツェ絵画を概観できることであろう。
それはビザンティン美術の影響から脱して新しい様式を経て初期ルネサンス、盛期ルネサンス、そしてマニエリスムへと至る過程である。いずれの時代においても、それぞれの様式を代表する画家の傑作が並び、まさにそこにはフィレンツェ絵画を濃縮した姿がある。
ジオットの『荘厳の聖母』、ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノの『東方三博士の礼拝』、マザッチオの『聖母子と聖アンナ』、ウッチェルロの『サン・ロマーノの戦い』、ピエロ・デルラ・フランチェスカの『ウルビーノ公夫妻の肖像』、フィリッポ・リッピの『聖母子と天使』。ボッティチェルリの『ヴィーナスの誕生』と『ラ・プリマヴェーラ(春)』、レオナルド・ダ・ヴィンチの『東方三博士の礼拝』、ラファエルロの『ひわの聖母』、ミケランジェロの『聖家族』、ポントルモの『エマオの晩餐(ばんさん)』。非常に有名なこれらの作品も、ウフィーツィ美術館の崇高なコレクションの一部にすぎないのである。(松浦 弘明)