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【コラム】美術の皮膚(55)「おしゃべりな絵画~絵画のコンテクスト~」

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美術市場を席巻するオイル・マネーの他に、景気が回復してきたアメリカにも“富”はあった。富裕層や機関投資家を相手にしたヘッジ・ファンドは、時に莫大な利益をその運用担当者(マネージャー)にももたらす。

3億ドル(2位)当時の最高額を更新
『インターチェンジ』(1955年)
(蘭/米)ウィレム・デ・クーニング(1904~1997)
売却者:(米)デヴィッド・ゲフィン(レコード会社経営)
購入者:(米)ケネス・グリフィン(ヘッジファンド・マネージャー)

クーニングはオランダ出身でアメリカで活躍した抽象表現主義で、ジャクソン・ポロックと並ぶアクション・ペインティングの代表的な画家。近年もっとも美術市場で高額の評価を受けている。購入者のケネス・グリフィンは、2015年のランキング1位を獲得した凄腕のヘッジファンド・マネージャーで、その報酬は17億ドルとも云われている。

No17a
image via wikipedia

2016年
2億ドル(5位)
『No.17A』(1948年)
(米)ジャクソン・ポロック(1912~1956)
売却者:(米)デヴィッド・ゲフィン(レコード会社経営)
購入者:(米)ケネス・グリフィン(ヘッジファンド・マネージャー)

クーニング『インターチェンジ』の3億ドルには及ばないものの、翌年もケネス・グリフィンは、現代アートを代表する作品を高額で購入した。ポロックの作品は2006年に当時の最高額1億6,400万ドルで取引されているから、10年で20%(3,500万ドル)も値上がりしていることになる。

ただの美術好きなのかもしれないけれど、世界的な低金利だった2015年を考えると、お金のプロにしてみれば美術は利回りの良い投資物件なのかもしれない。

“価格”をひとつの尺度に考えるのはとても解りやすいけれど、それだけでその絵の“価値”までが決まってしまうわけではない。かといってただの「好き嫌い」だけで語れてしまうほど自分の美意識にも自信はない。

では、“良い”作品はどんなものなのか?そんな大それた課題だって「美術の皮膚」ならば、恐縮だけど軽々しく提案できる。

学生時代に「音楽プロデュース研究会」というサークルに入っていたことがある。歌ったり、楽器を弾いたりするんじゃなくて、プロデュースする裏方だ。

その時に、好きな音楽ならば10秒も聴いていればすぐに判断できるけれど、それじゃただの聴き手だって思ったから、どんな音楽が“良い”音楽なのか、自分なりの尺度を持とうとして、「景色」が浮かんでくる音楽を“良い”音楽だと決めてみた。それだけ聴き手が気持ちを動かされているのだと思うからだ。

だから、逆に“良い”絵からは音楽が聴こえるんじゃないか?と仮説を立てて絵画を観てみた。けれど、さすがに音楽は聴こえてこない。その代わり“良い”絵は何かを語りかけてくるような気がした。で、美術の“師匠”に訊いてみたら「良いところに気が付いたね。良い絵画からは音楽が聴こえるんだよ」と言われた。

音楽が聴こえなかったのは僕の感受性不足なのかもしれない。まだ師匠のように音楽は聴こえてこない。

「絵が語りかけてくる」なんて言うと少しオカルトみたいだから、理屈っぽく言い換えると、それは絵の持つ“情報量”なんだと思う。

作品の中に文字が書かれているわけではないから、画家が絵に託した“情報”をほじくり返すことになる。どんな時代に描かれたのか?画家の人生はどうだったのか?作品はどうやって遺ってきたのか?絵画は意外に「おしゃべり」だ。

だから「美術の皮膚」は、絵画と交わした世間話になる。作品が“コンテンツ(中身)”だとしたら“コンテクスト(文脈)”だ・・・なんて偉そうに言うと少し恥ずかしいけれど、作品の「おしゃべり」を聞くのは楽しい。

もちろん、何百年も遺ってきた作品たちには、もうそれだけで価値があるだろうし、遺ってきた理由は確実にあるはずだから、いまさら勝手に“基準”なんて必要はないのだろうけれど、そのうち音楽が聴こえてきたら、ご報告致します。

(つづく)

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター

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