コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚(52)「おしゃべりな絵画~絵画の値段の意味~」

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Sarubatrumundy
サルバトール・ムンディ(世界の救世主)/ image via wikipedia

2017年11月にルネサンス期の絵画(伊)レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)『サルバトール・ムンディ(世界の救世主)』(1490~1519年頃)が、N.Y.クリスティーズのオークションに出品されて、絵画取引史上最高額約4億5,000万ドルで落札された。

万能の天才が500年以上前に描いた作品は、元々遺っているダ・ヴィンチの作品が少ない上に、そのすべてが既に美術館に所蔵されていて、市場に出てくることさえ奇跡に近いのだから、金額に驚くこともない。

ただ、唐突なレオナルド・ダ・ヴィンチ作品の登場に、本物か?って少しだけ疑わなかったわけじゃないけれど、名だたる専門家たちが判断した真贋を疑うなんて恐れ多くてできない。しかもおよそ500億円をそんなに簡単に間違えない。

モナ・リザ

僕はルーブル美術館から一度盗まれて戻ってきた『モナ・リザ』が「実は偽物じゃないか?」という噂を聞いて、そうだとしたら“本物”は、絵画市場の連携が取れている欧米圏での取引はきっと無理だろうし、相当の財力がなければ買えないし、ロシアしかもエルミタージュ美術館の地下倉庫に眠っていたりしたらロマンチックなんじゃないかと思ったくらいだから、出品者がロシアの大富豪となれば、きっとこれは本物なんだと思う。

一方、当初は隠されていた購入者はアブダビの観光局だと判明して、2007年のフランス政府とアラブ首長国連邦の合意によって(仏)ルーブル美術館のユニバーサル館として創立された「ルーブル・アブダビ」に飾られることも公表された。ヨーロッパのサッカー・チームのように、いよいよオイル・マネーが美術市場にも本格的に流れ込んできたみたいだ。

もちろん絵画の価値を“値段”だけで判断するのは少し違うとは思うけれど、ひとつの尺度として解りやすいのは事実だ。

美術品が高額で取引されるのは、もちろん投機的な目的もあるとは思うのだけれど、経済的な成功を収めた人が、同時代のアートを庇護したり、人類史上に受け継がれてきた芸術作品を守護したりする責任を担うという意味は大きいと思う。

もっとも、バブル期に名画を買ったのは良いけれど「自分が死んだら棺桶に入れてくれ」と言って世界中から顰蹙を買った日本人のように、ただ成功の自己顕示をしたい哀しい目的も全くないとは言えない。

でも、2015年に1億8,000万ドルでフランスの富豪エリック・ド・ロスチャイルド男爵から売り出された(蘭)レンブラント・ファン・レイン(1606~1669)『マーティン・スールマンズとオーペン・コピットのペンダント肖像』(1634年)の2枚組の絵が、国外に流出させたくないフランスと、自国を代表する画家のレンブラント作品を買い戻したいオランダが半額ずつを出すことで手を組んで購入して「アムステルダム国立美術館」と「ルーブル美術館」に共同で所有されるという出来事のように、絵画が国の結構重要なアイデンティティだったりもする。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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