コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚 (11)「美術の数字遊び」

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フランスの詩人ヴァレリーの言葉「最も深いもの、それは皮膚である」を免罪符にして、美術の上辺をなぞっただけの駄文を書かせてもらっているのだけれど、ある時ふと鑑賞するだけでなく、なにか他にも美術を楽しむ方法がないかと思い立って、著名な画家たちについてのデータをひたすらに表計算ソフトに入力してみたことがある。

美術が決して専門的な話題じゃなくて、気楽に楽しめるきっかけが何かみつからないかと、少しだけ期待をして、データを使って「数字遊び」をしてみた。

もちろん、専門書を熟読した訳でもないから、美術史を揺るがす新発見などみつかる訳もないし、普通に本屋さんで売っている「西洋絵画史WHO'S WHO」(美術出版社)をはじめとした美術の入門書を参照したり、僕の美術の先生たちに話を聞いたりして、13世紀ゴシック様式から、20世紀ポップ・アートまでの300人程度の情報を拾い続けた。傾向とか概要くらいなら判るかな程度のたった私的な画家リストだけれど。

きっとこれからも、新しいデータがあれば追加で入力し続けるけれど、ちょっとここで一度まとめてみたら、やっぱりそうかと納得したり、僕の思い込みとは違ったり、意外な結果に驚いて、またもう少し美術を知りたくなったりするから、当初の目的は少しだけ果たしている気がする。データの結果にご意見もあるとは思うけれど、表面的な「数字遊び」だとご容赦いただければと思う。

そもそも、ルネサンスでさえ600年以上も前のことなので、美術は考古学に似ていて、作品や限られた資料を元にして、鑑賞者の想像力が美術史という物語を紡いでいる側面があるから、実際に一枚の絵に関しても評価や解釈はひとつではないし、科学技術の発達で新しい発見が見つかったりして、だから面白かったりもする。

Hokusikanagawa
神奈川沖浪裏 / image via wikipedia

19世紀に(日)葛飾北斎(1760~1849)は「神奈川沖浪裏」で、「日本人には波の飛沫が見えるのか?」と、その描き方の独自性がヨーロッパの人々を驚かせたけれど、近年になって高性能カメラが登場し、波を撮影してみると、本当に北斎の描いた波に似ていたりして再び僕らは驚かせた。

さらに、北斎は今の千葉県鴨川辺りに足繁く通っていた記録が残っていて、同時代に活躍した「波の伊八」と呼ばれる彫刻師「武志伊八郎信由」の作品から学んだのではないかとも云われている。

こんな話を聞くと、波の伊八の掘った作品を観てみたくもなるけれど、いずれにしても日本人の自然と向かい合って共生する態度は、日本発のアートの世界感にも大きく影響しているのだと思う。

そんな北斎は、1999年発行LIFE誌(米)で「この1000年で最も重要な功績を残した世界の100人」に日本人として唯一選ばれた。「日本人で唯一」ということよりも、19世紀以降の画家として(西)ピカソ(1881~1973)と並んでたった二人だけ選ばれている。

これの意味するところは、20世紀「現代アートの父」ピカソ以前の、印象派をはじめとする19世紀の画家たちに葛飾北斎が多大な影響を与えているという功績が評価されたのだということだ。それはもう凄いことだし、同じ日本人として鼻が高いけれど、そうなると19世紀以前に、最も後世の画家たちに影響を与えた画家は誰なのか?ということも気になってくる。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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