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【コラム】美術の皮膚(19) 「職業によって違った寿命」

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西ローマ帝国滅亡(476年)から東ローマ帝国滅亡(1453年)までを意味する「中世」に生まれた64人画家たちの平均寿命は、60.53歳だった。

ちなみに日本の歴史で「中世」の意味は、古代(朝廷が全国を統一していた律令制の社会)が終わって、君主に使える諸侯が自分たちに与えられた領土を支配する封建制度が始まってから、織田信長をはじめとする戦国武将が登場して全国統一を図ろうとした頃まで(12世紀~16世紀)を指すけれど、西洋史の中世と物理的に年代が重なるのは古墳時代から室町時代の長い期間だ。

色々な資料で(いくら乳幼児の死亡率が高かったとはいえ)中世西ヨーロッパの平均寿命は、25~30歳くらいだと目にするし、しかも職業によって寿命に差があって、自然と共に暮らすはずの農民たちは、農作業で体を酷使しているのに食生活が貧しかったために栄養不足で病気にもかかりやすく短命で、逆に命のやり取りをする十字軍の兵士たちは、今のアスリートのような高タンパク低脂肪の食事を摂りながら、教会内の厳しい規則によって清潔な生活をしていたので長寿であったとも云われているから皮肉なものだ。

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25~30歳と云われている中世ヨーロッパの一般的な平均寿命と、60.53歳という僕が勝手にリストアップした64人の中世生まれの画家たちの平均寿命を比較するのは意味がないと諦めたのだけれど、「乳幼児の高い死亡率を除いて20歳まで生きた人々の平均寿命は男性で47歳、女性で44歳だった」という記述を『中世の日常生活』(中央公論社)の中に見つけた。

それでもまだ画家たちの平均寿命とは10歳以上の差があるのだけれど、先述の「職業によって寿命に差がある」ことも合わせて考えると、教会が支配していた時代に、教会に庇護されていた芸術家たちは、とても大事にされていたはずだし、清潔で優良な環境で生活していたに違いないと思う。

とはいえ創作はしなければならないから、飽食ではあるものの暴飲暴食をしている暇もなかっただろうし、戦争に行くこともなかったのだから、10歳くらいは長生きするだろうし、やはり中世の「画家は長寿」だったのだと云っても良い気がしてきた。

(つづく)

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター

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