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【コラム】美術の皮膚(44)「盗難絵画②~やっぱり盗難絵画は現金化できない?~」

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モナ・リザ
モナ・リザ」/レオナルド・ダ・ヴィンチ

世界を揺るがした『モナ・リザ』盗難事件から2年が経ち、捜査が暗礁に乗りかけた頃に、『モナ・リザ』の故郷(伊)フィレンツェのウフィッツ美術館から、「モナ・リザが見つかった!」とルーブル美術館に連絡が入る。

捕まった犯人はイタリア人の木工職人ヴィンセンツォ・ペルージャで、ルーブル美術館で作業をしたことがあったから、館内の事情にも通じていたらしい。取り調べで彼は「フランスに奪われたイタリアの宝を連れ戻したのだ」と供述してみせた。

実際には、16世紀に当時のフランス国王フランソワ1世に招かれて、レオナルド・ダ・ヴィンチが自らフランスに持ち込んだのだから、ただの言い逃れだけれど、イタリア国内では犯人を英雄扱いして、短い刑期で出所させたりもしている。

400年ぶりに里帰りした「マダム・ジョコンダ」も、名残惜しまれるようにイタリア各地で展示された後、1914年1月4日にパリに戻って来ることになる。

逮捕の現場になったフィレンツェのホテル「トリポリ・イタリア」は、「ホテル・ジョコンダ」と看板を変えて、20号室には「ここで『モナ・リザ』が発見された」というプレートが貼られているというから、今や自国の宝をフランスでしか観ることができないイタリア人の忸怩たる思いは計り知れない。もしかしたら商魂が逞しいだけなのかもしれないけれど…

ところが、およそ20年後に、犯人逮捕で一件落着かに見えた大事件について、ドラマみたいな推理をした記事が発表される。実行犯とは別に「ここだけの話、実はあの『モナ・リザ』があるんですよ。盗品なのでお安くしておきますけれど、当分の間は所有していることを秘密にしておいて下さい」と売り捌こうとした黒幕がいたというのだ。

しかも、本物ではなくて複数の『モナ・リザ』の贋作を売るために、本物を盗むようにペルージャを唆したというのだから、この記事が本当ならば、盗品と知りつつ購入する人の心理を利用した、かなり手の込んだ詐欺だ。

しかし、この稀代の詐欺師からの連絡が途絶えたペルージャは、2年もの間『モナ・リザ』を自宅に隠し持っていたけれど、お金に困ってフィレンツェの古美術商に買ってもらおうと持ち掛けたところ、真贋の鑑定に呼ばれた前述ウフィッツ美術館の館長が通報して逮捕につながったとなれば、辻褄は合っている。やっぱり「盗品は簡単に現金化」できない。

事件の真相は今でも藪の中だけれど、以後『モナ・リザ』がフランス国外へ持ち出されたのは、1963年のアメリカと1974年の日本~ソ連での巡回展だけで、現在は額縁ごと厳重なケースの中に飾られて門外不出となっているのだから、もう二度とこんな大事件が起こることはないと思う。

ちなみに、1974年に東京国立博物館で開催された「モナ・リザ展」には、およそ150万人の来場があったというから、東京・京都・福岡で合計300万人弱を動員して、国内最多来場者数を記録した1965年「ツタンカーメン展」と比べても、1か所での開催ということを考えると日本でも『モナ・リザ』は圧倒的な人気だ。

画面の中だけではなく、作品にまつわる謎も多い『モナ・リザ』だけれど、少し前に衝撃的な話を聞いたことがある。

新しくルーブル美術館に就任した館長が、その時の挨拶で「私は『モナ・リザ』の真贋を疑っている」と言ったというのだ…目眩がしそうだから、できればこれ以上のミステリーは聞きたくなかったけれど、新館長は続けて「たとえ『モナ・リザ』が偽物だったとしても、年間にルーブル美術館を訪れる700万人以上(当時)の人々を感動させている事実こそが重要なのだ」と言ったそうだから、少し安心ではあるけれど。

しかし、もしルーブル美術館の『モナ・リザ』が偽物だとしたら、本物は何処にあるのだろう?と不謹慎な想像力が湧いてくる。

ペルージャが捕まったように、連携の取れている欧米圏での取引は恐らく無理だろうし、相当の財力がなければ買えないし、今でもひっそりと地下の倉庫に『モナ・リザ』が眠るのに相応しいのはきっと…いや、邪推は止めて、先ずはまだ観ていないルーブル美術館の『モナ・リザ』に会いに行く方が先だ。

つづく
高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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