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【コラム】美術の皮膚(60)「今こそジャポニスムを考えてみる~“V.U.C.A.”な時代と日本~」

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官公庁によると、2017年の訪日観光客は前年比19.3%増の2,869万人で過去最高を更新したらしい。それと共に、旅行中の消費額も前年比17.8%増の4兆4,161億円で初めて4兆円を超して過去最高額を記録した。

ひとり当たりの消費額(15万3,921円)こそ前年比で1.3%減だったけれど、国別で見ると最も金額が多いのは通年では中国だけれど、4~6月だけをみると中国(225,485円/前年比2.5%増)ではなくて、なんと“英国”(251,171円/前年比36.2%増)だった。

イギリス人は、人数の多かった中国、韓国に比べて滞在日数が長くて(約13日)中高年の高所得者が中心で、買い物よりも宿泊にこだわったり日本の伝統文化への関心が高い傾向があるらしい。

滞在日数でいうと、ドイツ、フランス、スペインといったヨーロッパの国々も同じくらいだから、さすが「大航海時代」の最終的な覇者イギリスだなと、僕は余計なことを思った。

15世紀半ばにポルトガルとスペインを中心に始まった「大航海時代」は、世界中ほぼすべての地域にヨーロッパ人が入り込んで17世紀半ばには終わりを迎え、中でも産業革命で一歩リードしたイギリスに世界中の富が集まるようになった。

今でも「君臨すれども統治せず」の原則はあるものの、英国王を国王とする「イギリス連邦王国」に所属する国は、カナダ、オーストラリアをはじめとして世界中で(英国以外に)15か国もあって、独自の国王がいるもう少し緩い国も含めた「イギリス連邦」になると世界約200か国のうち1/4の50か国以上にもなるから、どの国よりもイギリス人は世界を俯瞰して見ているんじゃないかと思えるのも仕方がない。

でも、さすがと思えたのは、植民地の名残の国の数じゃない。

最近、高度に情報化された現代社会を表す時に、20世紀末に米国陸軍で言われていた“V.U.C.A.”という言葉を使っているのをよく見る。“不安定”“不確実”“複雑”“曖昧”の頭文字を採った「予測不能な状況」を意味する造語だ。

今までのような科学的、論理的、分析的なアプローチでは、現代社会に表出する課題の“解”が導き出せないという文脈らしい。実際に、インターネットをはじめとする急速に発展するテクノロジーに対してルールの制定が間に合わなかったり、企業のコンプライアンス違反が繰り返されたりしているのは、高度に発達した社会が、一方で高度に複雑化しているからなんじゃないかとも思う。

Sekainoerite

世界のエリートはなぜ“美意識”を鍛えるのか?経営における“アート”と“サイエンス”」(光文社新書)によると、そこで求められるのが“美意識”らしい。エリートたちは自身の美意識を磨くために、ビジネス・スクールに通うのをやめてアート・スクールやギャラリー・トークに殺到しているという。

曖昧で抽象的な“センス”とか“スタイル”といった言葉に、論理的思考に慣れている欧米型の秀才たちは戸惑っているようだ。

それを待たずに、日本の伝統文化に高い関心を見せているイギリス人は、真っ先に“解”を見つけに来ているから“さすが”だと思ったし、僕の暢気な妄想もまんざら外れていない気がする。日本には謙虚の美徳もあるから、訊かれたら答えるくらいがちょうど良いとは思うけれど、ただ訊かれた時に欧米かぶれしていて一緒に悩んでしまうのは避けたいところだ。

出身高校はキリスト教だし、それほど国粋主義ではないけれど、世界に出たら日本人の強みは、流暢な英語でも大げさな身振りでもなくて、(他の国の人と同様に)日本人であることだっていうことくらいは知ってる。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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