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【コラム】美術の皮膚(126)ゴッホとゴーギャン~7つのひまわり~

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「日本人の好きな画家」のランキングがあると、必ずと言って良いほど上位にランクインするのが(仏)クロード・モネ、(仏)オーギュスト・ルノワールといった印象派を代表する画家たちと、20世紀を代表する芸術家(西)パブロ・ピカソ、そして不運の天才(蘭)フィンセント・ヴァン・ゴッホだ。

世界三大名画の作者も、ルネサンスの三大巨匠も入っていないランキングは、聖書や神話に馴染みのない日本人が、美術館の企画展には行列を為すけれど、本当は古典美術にあまり興味がないからだろうなんて、思っていても言わないけれど、まさに印象派の絵画は、聖書や神話の黙示の役割を担わずに、ただひたすらに華やかなパリの明るさを描いているから、多くの人々から好まれるんだろうと考えるのは僕だけではないはずだ。司馬遼太郎がいうところの「文明と文化の違い」を引き合いに出さずともエンタテインメントとはそういうものだと思う。

ギネス・ブックにも載っているほどの多作で、しかもセルフ・プロデュースの天才でもあったピカソは、つい最近の20世紀に活躍したこともあって、好き嫌いは別にしても真っ先に挙げらる画家の名前としてレオナルド・ダ・ヴィンチと双肩だと思う。

そして印象派、ピカソ、ゴッホの共通点を挙げるとすれば、ジャポニスムの影響を少なからず受けていることだと思う。19世紀のパリはジャポニスム一色だったし、モネとゴッホの浮世絵コレクションは有名だ。

美術アカデミーの師匠によると、ピカソの代表作『ゲルニカ』は「浮世絵を真似たモノトーンの線描だっ!」ということらしい。ジャポニスムの画家たちに少なからずの親近感があるからこその上位だと言えば、きれいにまとまるのかもしれないけれど、しかしそう考えると、よりジャポニスムなセザンヌドガの名前が挙がって来ないことが気になる。

ただジャポニスムが理由でないとしたら、今度はゴッホは何故好まれるのかということになる。破滅的な彼の人生も多く紹介されているけれど、それは人気があるからであって、恐らく彼の生き様が人気の理由でもない気がするのは、人生の激しさでいえば、ルネサンス後期の画家(伊)カラバッジオ(1573~1610)がいるからだ。

絵画史に残る偉業と成功を収めていながら、何んといっても仇名が「人殺しカラバッジオ」で、ローマ教皇に死罪を言い渡されたこともあるくらいだから長い間美術史から抹殺されていた。

それならば、日本でのゴッホ人気で思い当たる理由は、やはり代表作の『ひまわり』の知名度にある気がする。

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「5番目」の『ひまわり』/image via wikipedia

1987年のバブル期に、日本の保険会社が50億円以上で「5番目」の『ひまわり』(1888年12月/東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館)を落札したニュースが世間を騒がせたのは僕の記憶にも新しい。しかも、この絵が好き過ぎたオーナーが「死んだら一緒に棺桶に入れてくれ」と言い遺したから、名画を灰にするのかっ!と世界中からバッシングを受けたという余談まである。

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「2番目」の『ひまわり』/image via wikipedia

そして同様の構図の『ひまわり』7枚のうちで現存しない「2番目」の『ひまわり』は「芦屋のひまわり」と呼ばれていて、それは文字通り兵庫県神戸市の実業家の自宅で米軍の空襲によって焼失してしまっている。

女官たち

もちろんゴッホの作品に、問答無用のエネルギーを感じるのは、彼の生き様と無縁ではないと思うけれど。ただ、お叱り覚悟で個人的な好みを言えば、エネルギーを“発する”作品よりも、むしろ吸い込まれそうな作品、例えば(西)ディエゴ・ベラスケスの『ラス・メニーナス』だったり、長谷川等伯の『松林図屏風』のような、その場の空気さえ描いている“吸い込まれる”ような作品が好きだ...と、ここまで言いながらゴッホのことは好きだけれど。

2880px Hasegawa Tohaku Pine Trees Shōrin zu byōbu left hand screen
松林図屏風/image via wikipedia

(つづく)

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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