コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚(46)「盗難絵画④~絵画の帰りを待つ空の「額縁」~」

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知られざる名画の殿堂の警備の盲点

Gassoufelmale
「合奏」/ image via wikipedia

1990年3月19日
『合奏』ヤン・フェルメール
他12点
盗難場所:(米)イザベラ・ガードナー美術館
発見場所:未発見
懸賞金:500万ドル
*未解決

巨額の遺産を相続した、慈善家で美術コレクターのイザベラ・スチュワート・ガードナーが創設した、イザベラ・ガードナー美術館(米・ボストン)は、彼女の個人コレクションで構成された私設美術館とはいえ、その所蔵作品には

(伊)ピエロ・デラ・フランチェスカ(1416~1492)
(伊)サンドロ・ボッティチェッリ(1444頃~1510)
(伊)ミケランジェロ・ブオナローティ(1475~1564)
(伊)ラファエロ・サンティ(1483~1520)
(伊)ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488頃~1576)

といったルネサンス期の巨匠たちや、バロック期17世紀オランダ絵画黄金時代を代表する

(蘭)レンブラント・ファン・レイン(1606~1669)
(蘭)ヤン・フェルメール(1632~1675)

の他にも

(仏)エドゥアール・マネ(1832~1883)
(仏)エドガー・ドガ(1834~1917)
(米)ジェームス・ホイッスラー(1834~1903)
(米)ジョン・シンガ・サージェント(1856~1925)

など、錚々たる署名の作品が並ぶ。特に、ピカソと並ぶ現代アートの巨匠(仏)アンリ・マティス(1869~1954)の作品を、米国で最初に所蔵したのはこの美術館だ。

コレクションだけでなく、中世イタリア風の建物や、手入れの行き届いた中庭など、こぢんまりとした中にも、創設者の高い美意識が具現化された、素晴らしい美術館だとの評判だけれど、この瀟洒な私設美術館の警備の盲点をついて、フェルメールの『合奏』や、レンブラントの作品を含む13点もの美術品が盗まれた。絵画にはなかなか定価がつけられないけれど、少なく見積もっても総額で5億ドルは下らないと云われている。

2013年には、FBIが犯人を特定したと発表したものの、作品の行方は依然として知れず、美術館は500万ドルの懸賞金を掛けて、今でも情報を求めている。

そして、創設者のイザベラ・ガードナーは遺言で、自らレイアウトした作品の位置を死後も変えないで欲しいと残しているため、現在でも盗まれた作品のあった場所には、空の額が掛けられていて、いつか作品たちが戻ってくる日を待っている。

17世紀オランダ絵画黄金時代を代表するフェルメールは元々寡作な画家で、現在はたった35点の作品が確認されている。そのうちのひとつである『合奏』が失われたままなのは、美術の愛好者はもちろん、天上の創設者も悲しんでいると思う。

作品の少なさだけではなく、奇才(西)サルバドール・ダリ(1904~1989)も愛したフェルメールは日本でも人気が高くて、今年は過去最多の8点が、上野の森美術館で展示される予定だ。

2012年の「マウリッツハイス美術館展」開催時(フェルメールは2点が展示)に、美術番組で「2時間スペシャル 幻惑のフェルメール・ミステリー~光を操る画家の真実~」を特集したら予想以上のご好評を頂いたから、今回もきっと超満員に違いない。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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