コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚(16)「長寿の画家たち」

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革命の画家たち②」の中で、ヴェネツィア絵画最大の巨匠(伊)ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488頃~1576)を、当時では珍しい長寿だと紹介したけれど、現在の世界の平均寿命でも約70歳と云われているから、88歳まで生きたティツィアーノは、現代人と比較してもやっぱり長生きだ。

Tizian
ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ / image via wikipedia

誰かに「画家は長寿で、作家は短命」と聞いたことがあるけれど、ルネサンス三大巨匠の一人(伊)ラファエロ(1483~1520)、バロック絵画に大きな影響を与えた(伊)カラバッジォ(1573~1610)、後期印象派でパリの街をポスター芸術で彩った(仏)ロートレック(1864~1901)、20世紀美術に大きな影響を与えた(仏)ゴッホ(1853~1890)はみな奇しくも40歳を前に早世している。

フェルメールの師でもある(蘭)ファブリティウスは34歳で、ヒトラーが憎んだ世紀末芸術を代表する(墺)エゴン・シーレは28歳で夭折していて、疑う訳じゃないけれど、本当に画家は長寿なのか?って、画家たちのたった私的リストに再び戻って、彼らの寿命を調べてみた。

昔の画家たちは、正確な生年・没年が判っている訳ではなくて、中には「何年頃」という記述も含まれてはいるけれど、そこは概算でご容赦いただくとして、ゴシック期の(伊)チマブーエ(1240頃~1302頃)から、ポップ・アートの(米)アンディ・ウォーホール(1928~1987)まで約300人の著名な画家たちの平均寿命を計算してみた。するとっ...

63.77歳。

中途半端だ…
2015年にWHOが発表した世界の平均寿命が71.4歳だから、決して長寿とは言えない…しかもヨーロッパ49カ国の平均寿命は77.7歳だ。

いや、よく考えてみると、飛躍的に人間の寿命が延びたのは医療が発達した20世紀に入ってからだし、19世紀の平均寿命は40~50歳とも云われているので、リストの299人中290人(96.7%)が19世紀までに生まれた画家たちということを加味すると、やはり画家は長寿なのか?とも思えてくる。

そこで、もう少し数字遊びを続けてみると、超人的な長寿のティッツィアーノの88歳を超えた画家が10人もいた。

98歳
エコール・ド・パリの中心人物
(露仏)マルク・シャガール(1887~1985)

94歳
ドイツ表現主義の代表的な画家
(墺)オスカー・ココシュカ(1886~1980)

92歳
20世紀最大の巨匠にして現代アートの父
(西)パブロ・ピカソ(1881~1973)

91歳
19世紀ロマン主義を代表する
(伊)フランチェスコ・アイエツ(1791~1882)

90歳
シュルレアリスムの先駆となる形而上絵画の創始者
(伊)ジョルジオ・デ・キリコ(1888~1978)
彫刻や陶芸にも幅広く才能を発揮した
(西)ジョアン・ミロ(1893~1983)

89歳
近代ベルギー美術を代表する画家
(白)ジェームス・アンソール(1860~1949)
20世紀を代表する水彩画家
(独)エミール・ノルデ(1867~1956)
ベル・エポック時代パリの人気肖像画家
(伊)ジョヴァンニ・ボルディーニ(1842~1931)
ルネサンス三大巨匠の一人
(伊)ミケランジェロ・ブオナローティ(1475~1564)

そして

88歳
(伊)ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488頃~1576)

11人中9人が19世紀以降に活躍した画家だけれど、ティツィアーノと並んで15世紀生れの(伊)ミケランジェロ(享年89歳)がいた。レオナルド・ダ・ヴィンチと対峙し、若きラファエロにも挑み、彫刻に絵画にその才能を発揮したエネルギッシュなイメージの面目躍如だ。

ちなみに、2015にWHOが発表した加盟194か国の平均寿命71.4歳(男:69.1歳/女:73.8歳)よりも長生きした画家は、リスト中98人(32.7%)もいる。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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