コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚(13)「データが思い出させてくれた巨匠」

今までの連載はコチラから

1999年発行LIFE誌(米)「この1000年で最も重要な功績を残した世界の100人」の記事に触発されて、たった自分で作った300人程度のリストからだけど、「19世紀以前に最も後世に影響を与えた画家」を調べてみると、1位と2位はやはり、ルネサンス期の巨匠2人、「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチと「夭折の天才」ラファエロだった。

1位:レオナルド・ダ・ヴィンチ(12人)
2位:ラファエロ(10人)

後世に影響を与えるということは、昔の(=後世が長い)画家の方が、条件として有利なのは当たり前なのだけれど、先人たちに敬意を表して、僕は美術の皮膚を撫でるように、表面的な「数字遊び」を続けようと思う。

実は、2位には同数でもう一人、偉大な画家がラファエロに並んだ。絵画黄金時代と呼ばれるバロック期の形成に大きな影響を残した(伊)カラヴァッジオ(1573~1610)だ。

しかし、カラヴァッジオはかなりの無法者だったようで、喧嘩三昧で人を殺めたこともあったり、実際に死刑まで宣告されて、教会に逃げ込んでは生き延びていて、いつも誰かの恨みを買っては狙われていて、逃げ回っている途中で若くして病死している。

人物を理想化して描かなかったり、(当時の画家たちの主流であった)デッサンを行わず直接キャンバスに向かう創作態度や、私生活の品行の悪さも加わって、当時からカラヴァッジオの評価は否定的なものが多かったと聞くから、本当に作品の持つ魅力だけが後世に影響を与え続けたのだと思う。

確かに、その生き様のような強烈な明暗や、ひりひりするような写実性が、むしろ彼を革新の先駆者として際立たせ、多くの影響を与えてきたのかもしれない。

2位(10人)カラヴァッジオに影響を受けた画家たち

バロック期 17世紀オランダ絵画

カラヴァッジオは上記の計10人の広い範囲の画家たちに影響を与えている。個人的には、闇との対比によって光を描いた彼の系譜は、バロック期17世紀オランダ絵画の(蘭)フェルメールや、印象派の(仏)モネにさえ繋がっていると思うのだけれど、素人考えの個人的な感想は控えて、データと淡々と向き合ってみる。

1位:レオナルド・ダ・ヴィンチ(12人)
2位:ラファエロ(10人)
2位:カラヴァッジオ(10人)

生意気なことを言えば、「後世に影響を与えた画家」の上位に、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、カラヴァッジオが並ぶのは、予想の範囲内だったけれど、その次にランク・インしたのは、初期ルネサンスに活躍したパドヴァ派の(伊)アンドレア・マンティーニャ(1431~1536)だったのは意外でもあり、忘れてはいけない巨匠を「数字遊び」が思い出させてくれた。

Shiserukirist
「死せるキリスト」/image via wikipedia

マンティーニャは、(神を描くのに俗世の現実味など不要だった)祭壇画をはじめとする平面的で生硬な表現が中心の初期ルネサンス期において、その代表作「死せるキリスト」(1480年頃/ブレラ美術館所蔵)のような、短縮法(遠近法の一種)を使って、画面に劇的な現実味を帯びさせたことで知られている。

ルネサンス期のフィレンツェでは、建築技術を応用した透視図法(遠近法の一種)を使って画面に奥行きを生むのが盛んだったのに対して、ヴェネツィアを含む北イタリアで活躍したマンティーニャは、同時代の彫刻家ドナテッロの影響を受けた独自の画法が、後進の画家たちに大きな影響を与えたのだと思われる。

4位(9人)マンティーニャに影響を受けた画家たち

ゴシック期
  • (独)パッハー・ミヒャエル(1435~1498)
初期ルネサンス期
  • (伊)ジョヴァンニ・ベリーニ(1430頃~1516)
  • (伊)ジェンティーレ・ベリーニ(1429~1507)
  • (伊)トゥーラ・コジモ(1430頃~1495)
  • (伊)ヴィンチェンツォ・フォッパ(1430頃~1515頃)
  • (伊)クリヴェリ・カルロ(1430頃~1493頃)
盛期ルネサンス期
  • (伊)アントニオ・アッレグリ・ダ・コレッジオ(1489頃~1534)
北方ルネサンス ラファエル前派
  • (英)エドワード・バーン=ジョーンズ(1833~1898)
上記の9人が、マンティーニャの影響を受けた。中でも特に、強い明暗の対比を描き、カラヴァッジオと共に、バロック絵画の先駆けと云われるコレッジオや、ドイツ美術史最大の画家デューラーが名を連ねているのだから、やはりマンティーニャは、僕がうっかり忘れていただけで、上位に入っていても当然の巨匠だった。「美術の数字遊び」で思い出した。 その他、ベスト10にランク・インしたのは下記の画家たち。

5位(8人)

6位(7人)

8位(6人)

こうして見ると、当たり前のことだけれども、名を連ねている画家たちは、独自の技術や画風を確立した巨匠たちばかりだ。皮肉な見方をすれば、独特だからこそ後世の研究者たちが「影響」のヒモ付をしやすいだけなのかもしれないけれど、例えそうだとしても、それぞれの時代やフィールドで、先進的な作品を創作していたことに違いはない。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
    スポンサードリンク

これまでの「美術の皮膚」