どんなに景気が悪くても成功者はいるわけで、右肩上がりが前提の経済は、絵画の価格にも反映されて、2017年に“別格”のレオナルド・ダ・ヴィンチ『サルバトール・ムンディ』が史上最高額(4億5,000万ドル)を記録するまでに年々更新されている。高額で取引された絵画の上位10作品を年度別に見ていくと
2006年
1億6,400万ドル(10位)当時の最高額を更新
『No.5 1948』(1948年)
(米)ジャクソン・ポロック(1912~1956)
売却:デヴィッド・ゲフィン(米レコード会社経営)
購入:デビッド・マルチネス(メキシコ人投資家)
ポロックは、20世紀アメリカ抽象表現主義の代表的な画家で、第二次世界大戦後に疲弊したヨーロッパ・パリからアートの中心をニューヨークへ転換させる決定的な画家だと言っても過言ではない。
自分たちの生きている時代のアートを庇護するという意味では、アメリカ抽象表現主義作品の売却者も購入者もアメリカ大陸の富裕層なのは興味深い。
2011年
2億5,000万~3億ドル(4位)当時の最高額を更新
『カード遊びをする人々』(1894~1895年)
(仏)ポール・セザンヌ(1839~1906)
売却:(故)ジョージ・エンブリコス(ギリシアの海運王)
購入:カタール王室
後期印象派で、ピカソやマティスといった20世紀美術に多大な影響を与えた“近代絵画の父”と呼ばれるセザンヌが好んで描いた「カード遊びをする人々」は他に4点が遺っていて、(米)メトロポリタン美術館、(仏)オルセー美術館、(英)コートールド・ギャラリー、(米)バーンズ・コレクションが所蔵している。
古典美術でも「カード遊び」を主題にした作品は多く描かれていたけれど、“人々”は酔っ払っていたり、博打好きの荒くれものだったりして、あまり好意的には描かれていなかったものを、セザンヌは“人々”を純粋にカード遊びをしている普通の農民たちにして、市民社会の自由を描いているように思える。
この作品の所有者が、ヨーロッパの富裕層から、オイルマネーによって“世界で最も裕福な国”に移っていくのは、まさに時代を表現しているのだと思う。
2014年
1億8,600万ドル(6位)
『No.6(すみれ、緑、赤)』(1951年)
(米)マーク・ロスコ(1903~1970)
売却:クリウチャン・ムエックス(仏ワイン商)
購入:ドミトリー・リボロフレフ(ロシアの富豪)
マーク・ロスコは、(米)ジャクソン・ポロック(1912~1956)、(蘭/米)ウィレム・デ・クーニング(1904~1997)と並ぶ抽象表現主義の代表的な画家。
ロシアでの迫害から逃れて幼少期にアメリカに移住したロシア系ユダヤ人だから、やはり購入者もロシアの富豪なのかと思ったのだけれど、購入者のドミトリー・リボロフレフ氏は、サッカーASモナコのオーナだったり、2008年に今や米大統領トランプ氏が売りに出した大邸宅を米国不動産史上最高額(約100億ドル)で購入したり、2014年には史上最高額の離婚慰謝料(45億ドル)を請求されたりして話題のロシアの大富豪で、あまり画家の出自は関係なさそうだ。
前述の『サルバトール・ムンディ』の購入者だと誤報されたりもしたけれど、実は2013年にスイス人美術商から約1億3,000万ドルで『サルバトール・ムンディ』をこっそり購入していた彼こそが出品者だ。差し引き3億ドル以上の利益だけれど、減額されたとはいえ慰謝料の6億ドルにはもう少し足りない。
(つづく)