コラム, 美術の皮膚

【コラム】美術の皮膚(147)カラバッジョ~お騒がせなカラバジェスキ~

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暴力ましてや人殺しなど決して許しれざることだけれど、絵画黄金時代バロックの原点に君臨するカラバッジョだから、その影響も計り知れない。以前「データが思い出させてくれた巨匠」でご紹介したように、ルネサンス期の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチに次いでカラバッジョに影響を受けたと云われた画家たちには、ざっくりとした僕のデータ・ベース上でも10人いた。

女官たち

しかも、各国に渡る面々はいずれも時代を代表する巨匠たちだ。なんなら世界三大名画と呼ばれている『ラス・メニーナス』と『夜警』の画家もいる。

夜警(フランス・バニング・コック隊長とウイレム・ファン・レイテンブルフ副官の自警団)
夜警

(伊)オラツィオ・ジェンティレスキ(1563~1638)
(伊)レーニ・グイード(1575~1642)
(伊)グェルチーノ(1591~1666)
(西)ホセ・デ・リベーラ(1591~1652)
(仏)ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593~1652)
(仏)ニコラ・プッサン(1594~1665)
(伊)アルテミシア・ジェンティレスキ(1597~1623頃)
(西)フランシスコ・デ・スルバラン(1598~1664)
(西)ディエゴ・ベラスケス(1599~1660)
(蘭)レンブラント・ファン・レイン(1606~1669)

レンブラントの弟子である(蘭)カレル・ファブリティウス(1622~1654)の影響を受けたフェルメールもリストに加えたいところだけれど、レンブラント以降のオランダ絵画は“カラバッジョ”色が徐々に薄まって来たと云われているから、僕の勝手な希望的予想は排除しないとキリがなくなる。

とはいっても、美術史上の重要な画家を10人挙げろとなれば、必ず上位に入るのは間違いないのだから、僕がカラバッジョに関するバグリオーネの誹謗中傷を懸命に否定する必要もあまりない。

下世話な話だけれどこんな画家の作品が現代に発見されたらいったいいくらの値段がつくのか?想像もつかないけれど、実は2018年に見つかったと云うのだ。いや、正確に言えばカラバッジョの作品かもしれない絵画だけれど。

2019年に制作されたミステリー仕立てのドキュメンタリー「疑惑のカラバッジョ」は、その顛末を仔細に伝えてくれた。

ある日、競売人のマルク・ラバブル氏に「ちょっと絵を見て欲しい」と電話があった。南仏トゥールーズの民家の屋根裏に眠っていたその絵を見た競売人は、決して良い状態で保管されていなかった“カラバッジョ風”の絵を見て直感的に「凄い絵が見つかった!」と1000万円の値を付けた。

そして、その絵が正式な鑑定の為にパリに送られると、専門家の間で「カラバッジョのもうひとつの『ユディト』ではないか?」と騒動になる。騒ぎが起こるのは当たり前で、400年前に描かれた『ユディト』がみつかったなら、その前年に約500億円で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチ『サルバトール・ムンディ』に続く一大ニュースだ。

旧約聖書に登場する『ユディト』は、19世紀末にクリムトたちが好んで描いた代表的な“ファム・ファタール(男を翻弄する魔性の女性)”だけれど、カラバッジョも『ホロフェルネスの首を切るユディト』を描いていて、違ったパターンの“ユディト”が存在するらしいと、昔から美術業界では云われていたのだから、競売人の直感よりも具体的だ。

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ホロフェルネスの首を切るユディト / image via wikipedia

その根拠のひとつに、カラバッジェスキのひとりルイス・フィンソン(1580~1617)という画家が描いたと云われている別バージョンの『ユディト』の複製画(ナポリ銀行所有)の存在がある。

複製画なのだから、その原画があるというのはもっともな話だ。ただ、ルイス・フィンソンという、カラバッジョと同世代で彼のアトリエにも出入りしていたというこの画家は(本人のせいではないけれど)少しお騒がせだ。

つづく

高柳茂樹
一般社団法人日本美術アカデミー
プランニングディレクター
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